泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『MASQUERADE』/MASQUERADE 『マスカレード』/マスカレード

けっして革命的な一枚ではない。

このアルバムがHR/HMの歴史を変えたとか、実験的アプローチで後続に多大な影響を与えたとか、のちに超有名バンドが彼らの曲をカバーしまくったとか、そういう類の作品とは言えない。

だが歴史の転換点ではなく、平穏な流れの中でこそ姿勢正しく咲くことができる名作というのが、少なからず存在する。歴史から正しく受け継いだ美点をその一身に集約したような質の高い楽曲は、そんな埋もれがちな状況で生まれ、忘れ去られてゆくことが多いように思う。残念ながら、それが現実というものらしい。

音楽的には、疑いなく北欧メタルの正統的な流れの上にある。発売当時は、北欧の先輩格であるTNTの後継者と目されていた。ちょうどTNTが活動を休止した折でもあり、むしろそれ以外の見方が難しいタイミングでもあった。それは彼らにとって幸運だったのか、不運だったのか。常にTNTの縮小版というイメージがつきまとい、彼らはその枠組から逃れるように、2ndでグルーヴィーに変身を遂げ、豪快に期待を裏切ってみせたのだった。

この1stにおける音楽性は、たしかにTNTに似ていると言って差し支えない。それもTNTの最高傑作とされる『INTUITION』に近い。ギターフレーズから北欧的哀愁を半分取り去ってエディ・ヴァン・ヘイレンのカラッとした爽快感に置き換え、ヴォーカルを若干ラフにした感じ。感触としてはTERRA NOVAあたりに通じる。テクニカルなギターは、特に歌メロの裏で派手に弾き倒すオブリガートが秀逸で、そこらへんの「やりすぎ感」には、スティーヴ・ヴァイやジョージ・リンチに通じるものがある。ヴォーカリストを怒らせてしまいながらも重宝されるタイプのそれだ。

一方でメロディの質感は、実のところTNTというよりも、より明快な響きを持つDEF LEPPARDに近いと言えるかもしれない。欧州的でありながらアメリカ的感性をも取り入れているという意味では、かの名作『PYROMANIA』に通じる部分がある、と言ったらさすがに褒めすぎか。
この手のメロディ指向のバンドのわりには、疾走曲が多いこともあって、アルバム全体に比較的メリハリがある。しかし疾走曲とバラード調の楽曲が交互に訪れる曲順は逆に単調なようにも思え、一曲ごとの完成度のわりにはアルバム全体のまとまりに欠ける印象が残る。だがそこらへんの全体の構成に対する認識の甘さも、考えようによっては一曲入魂の姿勢の反映であるようにも思え、いかにも初々しい。

だからこそ、このバンドに大量の予算を投入し、たとえばジョン・マット・ラングのような敏腕プロデューサーがまとめ上げたらどうなったのかと、聴くたびにそんな夢物語を想像してみたり。

人生とはつまり環境でありタイミングであると、そんなことをしみじみ思うにはあまりに爽快な音なのであるが。

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