泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『PORNOGRAFFITTI』/EXTREME 『ポルノグラフィティ』/エクストリーム

EXTREMEのニューアルバム『SAUDADES DE ROCK』が、かなりいい。かなりいいが、最高ではない。なぜならば、彼らはすでにその手でこのアルバムを創造してしまっているからだ。比較対象が悪すぎる。自業自得だ。

再結成とは、この世のすべてが相対評価でしかないことを、はっきりと思い知らせてくれる残酷な機会である。再結成作の評価は、常にそのアーティストが過去に生み出した最高傑作を基準として下される。他に駄作があることなどファンはすっかり忘れている。過去すべての楽曲クオリティの平均値をとってそこと比べるなどという優しさを、聴き手は持ち合わせてはいない。良い思い出ばかりが残る。輝かしく美化された思い出との勝負は、いつだって不利だ。

本作の素晴らしさは、メロディとグルーヴの高次元における両立、これに尽きる。ロックという音楽において、誰もが目指すであろうこの両立を、ここまでのレベルで実現したアルバムなど滅多にあるものではない。おうおうにしてメロディはグルーヴの犠牲になる。たとえば彼らの4th『WAITING FOR THE PUNCHLINE』などはその顕著な例だ。グルーヴを追求することにより、美しいメロディーは失われていった。

かといって、では本作を、「メロディとグルーヴのバランスが適度に取れたアルバム」と評すれば良いかというと、それも違う。そういう手加減など一切なく、すべての要素が極限までやり切られている。歌メロ、リズム、ギターリフ、ギターソロ等々、あらゆる要素が、それぞれの特長を最大限にアピールした上で、奇跡的にバランスが取れてしまっている。そこに中庸的な感覚は、おそらくない。だからこそ、彼らには二度とこのバランスの作品は作れないだろう。奇跡はバランス感覚で生み出せるものではない。

アルバムの中身を、メロディサイドの楽曲と、グルーヴサイドの楽曲に分類することも、あるいは可能だろう。しかしメロウなバラードにグルーヴを内在させるセンスや、ファンキーなリフにメロディを感じさせるフレージングにこそ、彼らの凄みがあるのかもしれない。カラオケで歌ってみるとわかるが、名バラード“More Than Words”は、相当リズミカルに歌わないと平板に響いてしまう。一方、ギターを手に取り“Suzi”を弾いてみれば、リフからソロに至るまで、徹頭徹尾あまりに流麗かつメロディアスに作られてあることに驚く。彼らの場合、アルバム単位、あるいは楽曲単位どころではなく、リフ単位、ワンフレーズ単位でメロディとグルーヴが同居している。そこまでミクロなレベルで両者が共存共栄している作品は、彼らがリスペクトしてやまないQUEENにさえないのではないか。

再結成作において、EXTREMEが本作を目指さなかったのか、目指したけどそうならなかったのかはわからない。だが目指さなかったとしたら正解だと思うし、目指してもそうならないのは当然だとも思う。

これは狙って作れるタイプの傑作ではない。

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