泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

短篇小説

短篇小説「ラジカセの木」

男は庭の畑でラジカセの苗を育てていた。 苗とはいっても、水を遣るわけにはいかない。なぜならばラジカセは、電化製品だからである。庭にはビニールの屋根がついていた。音を聴かせて育てるしかない。それも正確な育て方かどうかはわからない。そんなこと、…

短篇小説「ハズキルーペがハズかない」

「今日も私は精一杯、力の限りハズけていたのだろうか? あるいは楽をして、中途半端に七割方ハズいたあたりで、満足してしまっていやしないだろうか?」 近ごろ私は、仕事を終えた帰りの電車内で、毎日そう考えている。それはもちろん、私が最近ハズキルー…

やばたにえん無闇応用型短篇小説「えぶりたにえん」

後楽園と豊島園の中間地点にある高校に合格した谷園子は、入学初日に世紀の朝寝坊をしてしまい非常にやばたにえんであった。「ちょっとお母さん、なんでおこたにえんしてくれなかったの! お蔭で初日から大ちこたにえんじゃない!」 顔をあらたにえんする暇…

短篇小説『無効フラグ放題』

よく風の鳴る嵐の夜だった。マンションの一室の床にひとりの男がうつ伏せに倒れている。男を取り囲むように、火のついた百八本のロウソクが配置されている。いつから燃えているのかはわからない。 男の頭上にある窓ガラスが風を受けてビリビリと頻回に震えて…

短篇小説「割引人間クーポンマン」

たった一枚の紙切れが、ひとりの人生をすっかり変えてしまうことは珍しくない。たとえば、戦時下における召集令状。第一志望校からの合格通知。あるいは、勇気を振りしぼって書かれた一通のラブレター。紙切れの持つ意味あいこそ違えど、場合によってはそれ…

短篇小説「一理あらまほしき男」

ある朝、壱村理太郎が満員の通勤列車内で老人男性に席を譲るため立ち上がると、老人は理太郎のつま先を杖で小突きながら烈火のごとく怒りを表明したのであった。「ワシはこうやって、すっかり曲がってしまった腰を伸ばしているのだ! 誰の手先だか知らんが、…

短篇小説「冒険老婆」

男が街の小さな煙草屋を訪れ、窓口に座る老婆に声をかけた。よく晴れた春の日だった。「今日はあいにくの天気ですね」 「いやまったく、そうだねぇ」 老婆はおもむろに立ち上がると、窓口の脇にある勝手口の戸を開いた。男は身をかがめてそこから中へと入っ…

短篇小説「挟まれたい男」

ある朝男はマットレスと掛け布団のあいだ、いわゆる冷静と情熱のあいだに挟まれた状態で目が覚めた。つまり至って標準的な起床であったということになる。ただこの日に限っては、なぜか布団を上から「掛けている」というのではなく、上は布団から、下はマッ…

短篇小説「もしも氏」

我が愛すべき喪師喪史郎は、朝起きて顔を洗い朝食を摂って歯を磨くと、スーツに着替えて満員電車に飛び乗った。もしも彼がサラリーマンであったとすればだが。 しかし実際のところ史郎はサラリーマンではなかったので、歯を磨くまでは一緒だがユニフォームに…

短篇小説「愚問の多い料理店」

料理をいただくというのは、ただ料理を食べるということではないらしい。わたしは先日訪れたある店で、その事実をこれでもかと思い知らされた。「家に帰るまでが遠足」と学校の先生が言うのなら、「食べる前が食事である」と今のわたしは言いたい。もし言え…

短篇小説「開けたら閉める」

いよいよ人類待望の「手動ドア」が発明された。待ちに待った「手で開けるドア」の誕生である。 きっかけは、とある洞窟の最奥部に描かれた壁画であった。先ごろ発見されたその壁画に描かれていたのは、おそらくは古代人たちの生活風景であり、その様子は現代…

短篇小説「括弧つける男」

ある冬の朝、佐藤(初)が自宅(狭)のキッチン(雑)で朝食のトマト(赤)を切っていると、玄関の外(寒)から唐突に悲鳴(叫)が聞こえてきた(耳)のだった。 彼の家こそ狭いアパート(泣)ではあるものの、そこは閑静(黙)な住宅街(贅)。普段は二日酔…

「新語流行語全部入り小説2017」

ある金曜の夜、営業課長の栄村富夫が取引先の社長と猛烈にインスタ映えする最高級天ぷらを食している間に、デーモン閣下の娘(魔の2回生)であり彼の妻であるポスト真実(まみ)は、毎晩のように経費で遊びほうける夫に愛想を尽かし実家(地獄)へと帰還して…

短篇小説「ブルーレットをおくだけで」

そうブルーレットは、おくだけで良いのである。 ではいったいブルーレットをおくだけで、何が起こるというのか? 便器が綺麗になる? そんなのは当たりまえだ。 ブルーレットをおくだけでもっと様々な変化が起こらないのなら、わざわざ『ブルーレットおくだ…

短篇小説「森羅万象エネミー」

世の中の物体はすべて敵味方に分けられる。ご存知だとは思うが、敵味方というのは人間にのみ適応可能な概念ではない。我々は「燃えるゴミ」と「燃えないゴミ」を分別するように、あらゆる物体をも敵味方に分ける必要がある。さもないと、物に迷いが生じてし…

短篇小説「米米商店街」

その商店街にはじめて店を出したのは米屋だった。さすが日本人の主食である。と言いたいところだが、そのはす向かいにオープンした二件目の店もまた、別の経営者が開いた米屋だったことで町内は騒然となった。「おいおい、年貢はもういいぜ」 そう言って揶揄…

短篇小説「命に別条」

ある朝、男が工事現場の脇を歩いていると頭上から大量の鉄骨が降臨、その頭部を直撃するという事故が起きた。だが幸運なことに、この日初陣を飾った一張羅のカツラこそ飛び立ったものの、男の命に別条はなかった。別条がないというのは良いことである。 クロ…

短篇小説「壊れかけ包囲網」

崩彦の家では何もかもが壊れかけている。朝から洗濯機が妙な音を立てて。それでも槽はぎっこんばったん回り続け、やがてピーピー叫ぶので蓋を開けてみると、中はこんもり泡まみれ。逆に動作がすっかり止んでもまったくピーピーしない際にしびれを切らして蓋…

短篇小説「優しさはチャージのあとで」

本田優夫はすこぶる優しい男だから、ぶん殴った相手には絆創膏を多めに渡してやるのが常だ。リクエストさえあれば、そのうえで相手をひっしと抱きしめてやってもいいとすら思っているが、その場合はもう一発殴ることになる。もちろんその後に渡される絆創膏…

虚実空転日記「サバといつまでも」

騒音おばさんがじっくり煮込んだサバの味噌煮をご近所の玄関口にぶちまけたころ、著名なジャズマンは中学生ドラマーのドラムスティックを豪快に放擲していた。『ガリガリ君』のあたり棒の次に大切にしていたスティックを取り上げられた中学生は、素手による…

短篇小説「戸袋ひろしの誘惑」

それがどこの何線であろうと、電車のドア付近できりきり舞いしている男がいたら、それが戸袋ひろしである。あまりにも戸袋に引き込まれるものだから、「戸袋ひろしは戸袋に“挟まれている”のではなく、戸袋の中に“入ろうとしている”のでは?」という説もちら…

短篇小説「勇者・二度見村ミム彦の誤解」

勇者・二度見村ミム彦はいわゆる「二度見」の天才であった。彼はあらゆるものを二度見る。そして一度見た段階では確実に見間違えるが、再び同じものが視野に入ればその対象を正確に把握することができる。めでたく二十歳の誕生日を迎えたその日、ミム彦は初…

短篇小説「雨のドラゲナイ」

竜治は雨が降るとドラゲナイ気持ちになる。とはいえ竜治は一介の会社員。今朝も満員電車にドラゲナイしなければならない。二度寝が深まりすぎないうちに一大決心をして掛け布団を勢いよくドラゲナイした竜治は、トイレで用を、洗面所で顔をそれぞれドラゲナ…

短篇小説「死ぬのは面倒」

喪之彦は樹海の中にいた。人生に絶望した男は、ひっそりと自ら首をくくるための死に場所を探し歩いていた。とにかく丈夫な木を探す必要があったが、そんなものは樹海にはいくらでもあった。喪之彦は幹だけでなく枝まで太く頑丈な木を選ぶと、さっそくそこに…

短篇小説「森の覇者アラクレシスの三択」

森の覇者アラクレシスは覇者と呼ばれるくらいだから喧嘩は抜群に強かったが、ジャンケンがすこぶる弱かった。アラクレシスの生涯ジャンケン戦績は「400戦無勝」であったと言われている。そして彼の人生における重大な岐路には、必ずジャンケンが壁となって立…

短篇小説「いい意味で唯々男」

飯田唯々男はいい意味でいい加減な男だった。唯々男はいつもいいスーツをいい具合に着崩していたが、そのラフさが彼をいい意味でいい人に見せていた。そのうえ唯々男は近ごろいい感じに太ってきているため、勢いよく息を吸い込んでスーツのボタンを留めると…

短篇小説「天天天職」

どんな仕事にもその職務内で発揮される「才能」というものがあり、逆にいえば人にはその「才能」を生かす「天職」というものがあるらしい。「才能」というのはけっして、スポーツ選手や芸術家にのみ求められるものではない。映画チケットのもぎりにすら「才…

短篇小説「もはやがばわないばあちゃん」

がばいばあちゃんが思ったほどがばわなくなったのはいつの日からだろうか。がばいばあちゃんは、とにかくいつでも誰にでもがばうばあちゃんだった。イケメンにも不細工にも分けへだてなくがばうし、いったんがばうと決めたら老若男女も国籍も問わない。西に…

短篇小説「号泣家」

私は奇妙なことに、泣きながら産まれてきたのだとのちに母親から聞かされた。私がそんな奇抜なスタイルで産まれてきたのは、きっと両親が泣きながら出逢ったからだ。産まれてこのかた、私はずっと泣いている。何をするときも確実に泣いている。飯を食うとき…

短篇小説「最後の勇者」

王様に呼び出されるというのは、つまり職員室に呼び出されるようなもので、だいたい叱られるものと相場が決まっている。しかしこの日は違った。城の大広間にでんと鎮座している王様の前に跪くと、王様は僕の手を取り神妙な顔を作り込んで言った。「よくぞ参…

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