泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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ケメ子とメム美のジャンガジャンガ未遂

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あらかじめ断っておくが、何が面白いのかわからない話かもしれない。

先日カッフェで本を読んでいると、ミルクティーとチーズケーキのあいだから女子高生らしき二人の会話が聞こえてきた。願わくば消し忘れた煙草と中国茶(チャイニーズティー)のあいだからであってほしかったが、残念ながら僕は館ひろしではなく、店内に泣いている女もいないのだった(館ひろし「泣かないで」歌詞参照)。

それにしても彼女らの声はよく通る。聞き耳を寝かせていても突き抜けてくるフィジカルの強さがある。仮に二人の名をケメ子とメム美、話中に出てくる第三の登場人物をマモ代とする。


ケメ子「昨日帰ろうとしたらね、マモ代が校門の電信柱のとこで待ってたんだよね」
メム美「はぁ、でんしんばしら?」
ケメ子「うん、電信柱」
メム美「ん~、でんしんばしら……でんしんばしら!?」
ケメ子「電信柱だよ電信柱! マモ代が電信柱の脇から、こうやって顔出して待っててさ」
メム美「ああ! 電信柱ね。それひょっこりはんみたいじゃん」
ケメ子「でね、『マモ代それひょっこりはんみたいだよ』って話になって……」
メム美「……ああごめん。あたし先言っちゃったね。ひょっこりはん
ケメ子「そうだね……絶対言っちゃダメなやつだね……」
メム美「うん、絶対言っちゃダメなやつ」


「でんしんばしら」と言われて「電信柱」がなかなか思い浮かばないメム美も凄いが、電信柱のヒントを出すのに、ジェスチャーつきで電信柱から顔を出すポーズまでやってしまったケメ子にも否がある。ここは電信柱単体を伝えなければいけないところだ。ヒントの出しすぎが招いた悲劇である。

だからなんだと言われれば何もない。強いて言えばここには「対話」というものの難しさと面白さがある。

できればラストから四行目「でね、『マモ代それひょっこりはんみたいだよ』って話になって……」の直後に、間髪入れずアンガールズの「ジャンガジャンガ~」を入れて切り上げるのがベストな処理だったと思う。あのフレーズはほんと、どんな気まずい瞬間にも使える万能薬のような発明であると思っている。

結果的に、自分のいないところでじんわりスベらされているマモ代に幸あれ!


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短篇小説「ハズキルーペがハズかない」

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「今日も私は精一杯、力の限りハズけていたのだろうか? あるいは楽をして、中途半端に七割方ハズいたあたりで、満足してしまっていやしないだろうか?」

 近ごろ私は、仕事を終えた帰りの電車内で、毎日そう考えている。それはもちろん、私が最近ハズキルーペを購入したからである。

 しかしハズキルーペを所持しているからといって、何事をもハズけるとは限らない。無論ハズける確率はいくらか上がるのだが、やはり努力なしに何かをハズくことなどできやしない。

 そもそもハズくということが、果たして良いことなのかどうか。そのレベルから考えぬ限り、ハズくという行為は命取りにすらなるのである。

 私の中に「ハズく」という感覚が芽生えたのは、小学校時代に遡る。

 あれは小学三年生の春だったと記憶している。直前にクラス替えがあり、初めて迎えた理科の授業であった。ちょうど教室の窓から見える校庭の花壇に、みんなでハズキルーペの種を植えることになった。ハズキルーペの観察日記をつけるという、ごくごくありがちな授業である。

 クラス替え直後であるため、まだなかなか友達もできず、互いに冗談を言いあう関係性も築けていない段階。そんな時期に何よりも子供が怖れるのは、仲間はずれにされることであった。

 そしてここ日本において、「仲間はずれ」にされるというのは「目立つ」ことと同義であった。ただみんなと違うというだけで、仲間はずれにされてしまう。だから私たちはみな、目立つことを異様に怖れていた。

 そんな中、一週間もすると、花壇に植えられたハズキルーペが、次々とハズいていった。白、黒、赤、紫、パール、チタンカラー。色とりどりというには、どことなく渋好みなカラーリングのハズキルーペが、花壇をハズき尽くす様はまさしく壮観であった。

 なのに、私のハズキルーペだけがハズかなかった。それぞれのハズキルーペの根元には、それを植えた者の名を書いた木札が差しこまれていた。だから一箇所だけぽっかりと土を晒しているその土地が、私がハズキルーペの種を植えた場所であることは一目瞭然であった。

 その日の放課後、私はクラス全員が帰るのを待ってから、ひとりその花壇へと足を踏み入れた。そして泣きながら、クラスメイト全員のハズキルーペを、あらゆる角度からハズきまくったのであった。何もかも、すべてなくなってしまえばいい。私の魂は、小学校三年生のあの日、一度死んでしまったのかもしれない。

 だがその日の私が、我を忘れて暴力的にハズきにハズきまわしたハズキルーペたちは、どういうわけか一本たりとも壊れはしなかった。さすが日本製というほかない。


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やばたにえん無闇応用型短篇小説「えぶりたにえん」

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 後楽園と豊島園の中間地点にある高校に合格した谷園子は、入学初日に世紀の朝寝坊をしてしまい非常にやばたにえんであった。

「ちょっとお母さん、なんでおこたにえんしてくれなかったの! お蔭で初日から大ちこたにえんじゃない!」

 顔をあらたにえんする暇もなく、一張羅の制服をあわてて身につけたにえんした園子に、安穏と朝食をとりたにえんする時間はない。自室を出てリビングを駆けぬけたにえんしつつ、朝食を準備していた母親にそう苦情を申したてたにえんしながら、園子は家を飛びだしたにえん。

 電車通学の園子は、せいいっぱいの早歩きで最寄り駅へとむかたにえん。しかし勢いよく駆け込んだ改札直前で足をとめたにえんしたのは、彼女がこの日初めてつかたにえんするはずの通学定期券を家にわすたにえんしてしまったことに気づいたからだ。仕方なく券売機で切符をかいたにえんしたら、釣りがにえんだった。

「ああもう、なんて最悪な高校生活の幕あけたにえんなの!」

 その後も、初めての満員電車でもみたにえんくちゃたにえんだわ、駆けこみたにえんしたクラスが別たにえんだわ、上履きをわすたにえんしたものだからひとりだけPTA用のスリッパでぺたぺたにえんだわ、ようやく自分の教室へ辿りつきたにえんしたらすでに全員の自己紹介がおわたにえんで誰が誰だかわからなたにえんだわで、とにかく全体的にやばたにえんな入学初日であったというほかないたにえん。

 しかし園子があまりにたにえんたにえん言うものだから、なんだかそんな気分になったらしく、帰りにクラスの女子みんなでお茶漬けをたべたにえんしようということになって、すっかり仲たにえんが良くたにえんになれたのは、結果おーたにえんなのであった。


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耳毛に憧れたって駄目―悪戯短篇小説集 (虚実空転文庫)

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