泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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短篇小説「河童の一日 其ノ十三」

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近ごろなんだか調子が出ない。どはいえ調子が出たところでたいしたことはない。それは僕が河童だからなんじゃないか。

ついついそんな後ろ向きなことばかり考えてしまうのは、たぶんこの気候のせいだ。寒いようで暑い、暑いようで寒い。河童はそんな思わせぶりな気候が案外苦手で、だから五月病にもなりやすい。

ことわざで有名な「河童の川流れ」の約六割が、五月中に起こっているというデータ(日本河童総研調べ)がそれを如実に物語っている。ことわざの意味するような失策ではなく、意図的に溺れているケースもどうやら多いという。哀しいことだ。

ゴールデンウィーク中は、人間の友達がみんな家族旅行に出かけてしまっているから暇でしょうがない。とりあえずSNSに、リア充な友人たちが旅先で撮った写真が続々アップされている。みんな温泉に行ったりしているが、甲羅が傷んでしまうので河童は温泉に入れない。

専門店に行けば温泉対応の特殊コーティングがなされた甲羅が売っているけど、高すぎて一部のセレブ河童しか買えない。ならば甲羅をはずして入ればいいじゃないか、と言われそうだが、普段甲羅に守られているぶん河童の背中はすこぶる敏感になっていて、40℃くらいでも跳び上がるほど熱くてとても入っていられない。

「暇なら勉強でもしなさい」と母親には言われるけど、勉強したら休みじゃないから勉強はしない。そもそも夏休みに宿題があることすら納得いっていないのだ。宿題があったらそれはとうてい休みとは言えないじゃないか。そんなのは名ばかりの休みであって、本当の休みじゃない。よく知らないけどきっと大人のサービス残業みたいな感じだ。よく知らないけど。

だから僕はできるだけ休みを休もうと思った。誰よりも休みを休んでやろうと思った。だって考えてみたら、旅行に行くのだってちゃんと休んでいるとは言えないんじゃないか。移動で体は疲れるし、どこをどう回ろうかとプランを練ったり旅先で新しい発見をしたりで脳もすっかり疲れてしまう。それはつまり休みを怠っているということだろう。

そんな中、僕はなるべく頭も体も使わずに、ボーッと寝続けることによって休みを満喫している。それはもう、無の境地に近づいているのかもしれない。こうなったらもうレッツ涅槃である。なんだかとっても崇高な気分だ。

そしてゴールデンウィーク明けには毎年、死んだような目で学校へ行くことになる。寝すぎたせいで体は運動不足、頭はボーッと呆けていて、だからめちゃくちゃ五月病だ。五月病の正確な意味はわからないが、調子が出ないのだからきっと五月病ってやつだ。連休中すごくしっかり休んだのに、なんだかすごく疲れている。これはやっぱり、僕が河童だからなんじゃないだろうか。

そうなることはわかっているけど、まだ連休は残っている。となればやっぱり、ここは休みを全力で休むべきだ。いまはとにかくレッツ涅槃である。

今日も寝ながらキュウリをポリポリ。こんなにキュウリを美味しいと思うのは、やっぱり僕が河童だからなんじゃないか。これについてはまあ、本当にそうなんだろうな。


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現在企画頓挫中の新書タイトル一覧

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『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』あたりからだろうか。最近の新書はとにかく「タイトルありき」の羊頭狗肉が横行しているとの評判である。

ならばまずタイトルから決めてしまうのが良いのではないか、と思いタイトルから決めたところ、結構思いつくには思いついたが内容的にはすべてが自分の中で頓挫した。

原因はタイトルしか考えていないからである。中身はもちろん一文字も書いていない。これは大きな誤算であった。

以下にそのタイトル群を掲載して供養したい。

『ヅラは見た目が9割』

→たしかにそんな感じなのかな。でも装着感重視の人とかも結構いるんじゃないの。で?

『人生において大切なことはすべてガムの包み紙から学んだ』

→著者の人生が心配。

『ハーバード式かさぶた剥がし術』

→知性の無駄づかい。

『60分でわかるひらがな「ぬ」の書き順』

→むしろ時間が掛かりすぎている。

『ジャンケンのルールが面白いほど身につく本』

→身についていない人の少なさ。

『すべてのまばたきはウインクである』

→なんとなくイタリアの伊達男が書きそうだが、単なる間違い。

『東大合格者は全員二度寝する』

→無根拠。(他も全部そうだが)

逃げるは恥だが役に立つ~いま線路上を走っている人100人に訊きました~』

→100人に訊くことの難しさ。別名「スタンド・バイ・ミー症候群」。

『棚上げる力』

→誰も欲しがらない能力。

『TBSの修造のパクりみたいなアナウンサーはどうしてああなったのか?』

→知りたい。


以上です編集長。



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短篇小説「雨のドラゲナイ」

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竜治は雨が降るとドラゲナイ気持ちになる。とはいえ竜治は一介の会社員。今朝も満員電車にドラゲナイしなければならない。

二度寝が深まりすぎないうちに一大決心をして掛け布団を勢いよくドラゲナイした竜治は、トイレで用を、洗面所で顔をそれぞれドラゲナイしてから、ガスコンロでお湯を沸かしてインスタントコーヒーをドラゲナイするのが毎朝のルーティーンだ。冷蔵庫から卵を取り出し、それをフライパンでドラゲナイするか目玉焼きにするか迷ったが、時間がないことを思い出し結局目玉焼きにしたのち醤油をドラゲナイしてかっ込んだ。

いつもの如く猛スピードで歯、髭、髪、スーツ、ネクタイ、靴をドラゲナイした竜治は、玄関を飛びだすとパッと傘をドラゲナイして早歩きで駅へと向かった。

雨は苦手な竜治。しかし雨が降ったからといってドラゲナイことばかりとも限らない。どういうわけだか雨の日だけ同じ通勤電車に乗りあわせる女性がいて、竜治は彼女にドラゲナイするのを楽しみにしている。ドラゲナイするといっても、ただ遠くからそっと視線をドラゲナイするだけなのだが。

しかし今朝はそれだけではなかった。駅に停車するたび、ちょうどよく彼女と竜治のあいだにいる人たちが次々と抜けていった上で押し込まれ、気づけば竜治はドアに向かい彼女にドラゲナイするような状態になっていた。いわゆる「壁ドン」の按配である。

そしてこの日の列車は、とりわけ頻繁に右へ左へドラゲナイした。ひょっとすると4月に入社したばかりの新人運転手がドラゲナイしているのだろうか。そういえばさっきから、発進もブレーキングもことごとくドラゲナイような気がしてきた。だがなんとしても竜治は、ひしめきあう乗客から彼女をドラゲナイせねばならない。

肘を張って何度外敵とドラゲナイしたことだろうか。しかし竜治はドアについた左手の薬指と小指で辛うじて保持していたカバンを隣客の圧に持っていかれそうになり、いったん握り直さざるを得なかった。カバンの中には今日中に返さなければならないレンタルDVDが入っているのである。

そしてその避けがたいワンアクションにより一瞬の隙が生まれた。やや緩んだ竜治の左肘を押しのけて、大学生のような若者が彼女の前に突如ドラゲナイしてきたのだった。そして若者は何の前触れもなく彼女に向けて言った。

「好きです。ドラゲナイしてください!」

青天の霹靂であった。竜治は窓の外をドラゲナイしてゆく風景を見て落ちつきを取り戻そうと試みたが、その実験はむしろ彼の恋心にとめどない疾走感を与える結果となった。

「僕も好きです。僕とドラゲナイしてください!」

相変わらず前後左右にドラゲナイし続ける電車の中で、なんとかバランスを取りつつ慌てて繰り出した便乗ドラゲナイであった。彼女が明らかにドラゲナイしているのが、その表情から見てとれた。何しろ話したこともない二人から、満員電車内で同時に愛のドラゲナイを受けているのだ。

ほどなく電車が駅に停車し、しばらくぶりにこちら側のドアがドラゲナイした。降りる客が怒濤のように押し寄せる中で、彼女はおそらく自分にドラゲナイした二人に向けてただひとこと言い残して人波に消えていった。

「あ、あの……ドラゲナサイっ!」

まだ会社の最寄り駅まではいくらかあるため、竜治は放心状態のまま再び電車に乗り込んだ。いまの駅で多くの乗客が降りたため、車内はだいぶ空いてきていた。竜治は目ざとく空席を見つけると、へたり込むようにドラゲナイした。すると隣に、先ほどの若者がしれっと座ってきた。彼は同じフラれた者同士の友情でも感じたのか、妙に親しげな様子で竜治に話しかけてきた。

「彼女、なんか変なこと言ってませんでした?」
「ああ、『ドラゲナサイ』とかなんとか……」
「そんな言葉、ないですよね?」
「意味わかんないよね」

二人はそうして意見を一致させると、その後はひとこともドラゲナイせぬまま、同じ駅で降りて無言でドラゲナイした。竜治が地下鉄の駅を出ると、雨はもうすっかりドラゲナイしていた。しかしなぜか竜治は傘を思いっきりドラゲナイして会社まで歩こうと決めた。


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耳毛に憧れたって駄目―悪戯短篇小説集 (虚実空転文庫)

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