泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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悪戯短篇小説「タテ割り刑事」

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張り込み刑事が今日も現場に張り込んでいる。

張り込み刑事は文字どおりの張り込み刑事であるから、張り込む以外の仕事は何もしないし教わってもいない。手錠の掛けかたすら知らないし、そもそもそんなもの所持してもいない。銃なんてもってのほかだ。それぞれ手錠刑事発砲刑事に任せれば良い。

張り込み刑事は小腹が空いてきたので、差し入れ刑事に差し入れをお願いすることにした。差し入れ刑事アンパン刑事からアンパンを、牛乳刑事から牛乳を独自ルートで入手し、電柱の陰から向かいのビルを見つめている張り込み刑事に渡す。

張り込み刑事はそれをいったん後輩の毒味刑事に食べさせ、念入りに無事を確認してから口にする。アンパンや牛乳を開けるのは、もちろん開封刑事の役目だ。

やがて本部から張り込み刑事の無線に連絡が入ったため、これには無線刑事が応答する。無線刑事によると、現場となる302号室に容疑者が潜んでいるのは間違いなく、いよいよ突入の指示が下されたとのこと。スマホ刑事タブレット端末刑事からも同様の連絡が届いた。

張り込み刑事の指揮により、突入刑事がマンションの入口へと走り出した。それに合わせて、オートロック刑事が特殊な機械を用いて入口を解錠する。

そしてエレベーター刑事がボタンを押すことにより呼び寄せたエレベーターに、突入刑事エレベーター刑事が乗り込む。エレベーターの操縦をしていいのは、エレベーター刑事だけだ。

エレベーターが3階に到着し、扉が開く。突入刑事が302号室の前までたどり着くと、どこからともなくインターホン刑事が登場してインターホンを押す。例によって、犯罪捜査中にインターホンを押していいのはインターホン刑事だけである。

しかし3度に渡りインターホンを鳴らしても、室内からの反応は一切ない。突入刑事は強行突破を決意する。ここは解錠刑事蹴破り刑事のどちらを召喚すべきか迷うところだが、近ごろ婚約相手にフラれてムシャクシャしているという蹴破り刑事の一撃に賭けることにする。ガラケー刑事の呼び出しにより、1分後には蹴破り刑事が現場へ到着。

だが相手はマンションの鉄の扉。いくらローキックに定評のある蹴破り刑事とはいえ、蹴り一発ですんなりと開くものではない。派手に二・三発繰り出したところで「足が折れた」と言い出し、蹴破り刑事救急刑事に連れられてパトカーで病院へ。もちろん運転は運転刑事の担当である。

そうこうしているうちに、「窓から逃げたぞ!」との声がマンションの外から。これは張り込み刑事の指示により絶叫刑事があげた声である。しかし張り込み刑事は張り込み専門であるため、当然持ち場を離れるわけにはいかない。突入刑事も、「屋外を追いかけるのは突入って感じとはちょっと違うな」と判断して特に動かず。他の刑事たちは言わずもがな。

肝心の追跡刑事が、今日に限って非番であったことが悔やまれる結果となった。

脳内安西先生問答

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バスケを辞めて不良になった生徒が、「もう一度バスケがしたい」と虫のいいことを言ってもやさしく迎え入れてくれる安西先生…。

途中で投げ出しそうになったとき、「あきらめたらそこで試合終了」だと言ってアバウトに励ましてくれる安西先生…。

そんな安西先生ならば、きっとこの世のあらゆる悩みを解決できるはずだ。たとえそれが、どんなジャンルの、どんなスケールの悩みであろうとも…。

しかし大変残念なことに、安西先生は漫画の中にしかいないようなので、代わりに自分の頭の中にいる「脳内安西先生」にいろいろと相談してみることにした。

以下に挙げるのはそんな私の脳内で繰り広げられた、「脳内俺」と「脳内安西先生」による実りなき問答集である。


脳内俺安西先生、『いいとも』が観たいです」
脳内安西先生「ホッホッホ。あなたみたいな人間が、後半何年も観てなかったから終わったんですよ」

脳内俺安西先生、頭が痛いです」
脳内安西先生「ホッホッホ。あきらめたらそこで頭痛終了ですよ」

脳内俺安西先生、紀香の水素生成器がほしいです」
脳内安西先生「ホッホッホ。どうせ溺れ死ぬなら、水素水も泥水もおんなじですよ」

脳内俺安西先生、旬の食材を食べたいです」
脳内安西先生「ホッホッホ。生えたてのムダ毛を食べれば一石二鳥ですよ」

脳内俺安西先生、俺の寿司にだけ大量のわさびが!」
脳内安西先生「ホッホッホ。わたしの髭の裏のわさびよりは少ないですよ」

脳内俺安西先生、前髪を切りすぎました」
脳内安西先生「ホッホッホ。その調子でサイドもグイグイ削っていけば、あっという間に細川たかしですよ」

脳内俺安西先生、バスケがしたくないです」
脳内安西先生「ホッホッホ。あなたの家の外壁に、バスケットゴールを設置しておきましたよ」


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日常の憂鬱を絶望へと進化させたうえで吹き飛ばすためのメタル名曲5選

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例年になく雨が多かったり、涼しくなったと思ったらまた暑くなったり、そのせいで風邪をひいていまいち治りきらなかったり。世間様ほど夏にやんちゃをしたわけでもないのに、海にも山にもフェスにも行っていなければバーベキューもすいか割りもしていないのに、なぜか「夏の疲れ」が出てパワーダウンしがちなこの季節。

半袖を着れば肌寒く、長袖を着ればちょい暑い。傘を持って出ればまもなく雨は止み、傘を持たないという賭けに出れば狙いすましたように雨が降る。そんな気候に引っ張られるように、人間の判断力も自然とモヤッとしがちで、なんとなく憂鬱な日々を送っている人も多いのではないだろうか。

そういえば子供のころは秋が嫌いで、その理由は「他の季節と違って『秋休み』がないから」という馬鹿みたいな理由だった。そんな脳天気な子供も大人になってからはだいぶ秋が好きになったが、しかし秋にはやはり人を憂鬱にさせる抗いがたい空気がある。人間よりも季節のほうが遥かに大きい。

そして抗いがたいものに対して、必死に抵抗してみせるのは得策ではない。であるならば、この憂鬱を解消するには、むしろいったん仲良くするしかない。そして憂鬱の先にある絶望の果てまで仲良く手をつないで進んだところで、相手が気を許したところを見計らってぶち壊すのだ。

そんなイメージで、憂鬱な相手を手なずけたうえで雲散霧消させるのためのメタルソング5曲を選んでみた。ぜひ憂鬱が壊れるまで聴いてみてほしい名曲群。


◆「Gutter Ballet」/SAVATAGE

イントロの美しい鍵盤が、すでに絶望の始まりを予感させる。Vo.の力んだ声質は、聴き慣れない耳にはやや邪魔になるかもしれないが、それによって伝わってくる感情の起伏は大きい。

そして故クリス・オリヴァによる、激しくも美しいギターソロがオーケストラアレンジと絡み合う後半の展開は圧巻。

◆「Killing Me Killing You」/SENTENCED

見るからに北欧の雪景色の上で繰り広げられる暗黒の宴。どこにも生きる望みが感じられない遺書のような歌。

だがここまで完全にネガティブだとあまりに後ろ向きすぎて、一周して前を向いている可能性。

◆「The Unforgiven」/METALLICA

イントロのギターから歌メロ、ベースライン、そしてドラムの一音一音に至るまで、とにかくすべてがぬぐい去れぬ哀しみを目指している。

憂鬱に圧倒的な重さを加えると絶望になる。その重さが逆に、絶望を支えているとも言える。

◆「The Sails Of Charon」/SCORPIONS

ウリ・ジョン・ロートの奏でるギターの音階に感じる絶妙な違和感。流麗であるにもかかわらず、引っかかりが多く印象に残るフレーズの数々。

その常人離れしたギターに引っ張られるように、マイルドな声質を徐々に上ずらせてゆくクラウス・マイネの歌。絶望の先に異世界への入口が開けているような。

◆「Axe To Fall」/CONVERGE

ハードコアバンドが最もメタルに接近した際に放つ刹那の美。破壊衝動に溢れた轟音の最中を高速で上下動するギターの旋律が容赦なく麗しい。

その美しさがあっさり無駄に終わるような潔い終わり方もまた、鮮やかに絶望を感じさせる。

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